2017年12月27日水曜日

ルベーグ積分の勉強ノート8

追記:2018/07/18:距離空間やBanach空間について少し加筆しました.

追記:2018/01/14:定理の枠が複数ページにわたるときに,行頭の開始位置が下がってしまい,見た目がおかしかったので修正しました.またフビニの定理の主張に色々誤りがあったので直しました.

ルベーグ積分の勉強ノートを更新しました.
こちらにおいておきます.

今回は測度論の部分を全面的に書き直しました.
以前ルベーグ測度の構成と一般の集合上の測度の話を分離したときに整合性が失われてしまった部分があり,その点を補正しました.

伊藤清三「ルベーグ積分入門」(旧版) p.14, p.15あたりで区間塊の体積が区間への分割の仕方によらないことが証明されていますが,以前からこの証明が直感的過ぎて好きでなかったので,詳細を補いました.

比較的最近に出版された本,例えば谷島賢二「ルベーグ積分と関数解析」や,G. B. Folland 「Real Analysis」では,抽象的な議論を先に済ませてしまい,特殊な場合としてルベーグ測度を構成しているようです.つまり直積測度の構成まで抽象的に議論を進め,1次元ルベーグ測度の直積として一般の次元のルベーグ測度を構成しています.

この方針は初学者にはかなり厳しいと思います.というのも,直積測度の構成をするためにルベーグ式の積分を使うので,一般的な積分論をある程度終えないと具体例が登場しないからです.(谷島本は1次元ルベーグ測度の構成とルベーグ積分を最初に持ってきてバランスを取っている印象)

柴田良弘「ルベーグ積分論」では最初に完全加法族とその上の測度の定義を持ち出していますが,抽象的なものはそのくらいに抑えて,一般の次元のルベーグ測度を構成するところから始めています.しかし区間の体積から区間塊(互いに素な区間の有限個の和集合)の体積を定義するときに,整合性のチェックを忘れています.つまり区間塊の体積が区間の体積の和として定義されるためには,最初に定義した区間の体積に対し,区間$I$が互いに素な有限個の区間$I_1, I_2,\dots, I_N$の和集合として表される場合に,区間の体積$v(I)$が$v(I)=v(I_1)+v(I_2)+\dotsb + v(I_N)$を満たしている必要があります.この性質が冒頭に述べた伊藤本で証明が曖昧模糊としている部分です.

柴田本を最初に読んだときには,伊藤本のこの部分を上手く避けていると思い込んでいたのですが,よくよく検討してみると証明そのものがされていないだけでした.今回の更新ではこの点を補いました.

また,伊藤本は$0\cdot\infty=0$の規約を取らない方針で書かれており,直積測度の構成部分が複雑な書き方になっているのはこの規約を避けているためだと思い込んでいました.その理由として,直積測度の前段階である有限加法族上の有限加法的測度が完全加法的であることの証明(定理9.4)に用いられる3つの補助定理はかなり証明が面倒で,しかも定理の証明に測度のσ有限性が欠かせないように見えます.

しかし谷島本やFolland本を見ると,完全加法性の証明にはσ有限性が必要でないように見えます.ところがこれらの本では直積測度の完全加法性を積分を通じて証明していて,そこで$0\cdot\infty=0$の規約を使っています.このようにσ有限性の仮定(+複雑な議論)と$0\cdot\infty=0$の規約がトレード・オフの関係にあるものだと思い込んでいたのですが,D. H. Fremlimの「Measure Theory」を眺めていると$0\cdot\infty=0$とσ有限性の両方を避けつつ完全加法性の証明ができることがわかりました.σ有限性は一意性の証明にのみ必要です.

伊藤本や柴田本では測度のどの性質の証明にどの条件が必要なのかがはっきりと分からない書き方になっていますが,谷島本はそのあたりが整理されていて良い本だと思います.

また今回の更新では,Fremlin本を参考に部分集合上に部分空間測度を定義する方法や部分空間測度の直積測度について詳しく調べました.これは関数解析の本で時々,$\mathbb{R}^n$の開集合$\Omega$上の$p$乗可積分関数全体のつくる関数空間$L^p(\Omega)$などが載っていることがあり,一般の集合$X$上の$L^p(X)$についての証明がそのまま使いたいと思ったことが発端です.任意の部分集合上でかなりきれいな結果が得られたのは予想外でした.積分のことを考えると集合に制限が必要になってきそうです.